人の悪意を浴びるのは、当事者でなくとも不愉快なことだ。街を歩いていたら「殺せ!」とか「死ね!」とか言っているのを聞かなければならないというのは苦痛だ。
ドラマ「夫婦善哉」を見て自由軒のカレーを食べたくてたまらなくなった私は、ある週末、千日前の交差点を渡ろうとした。たくさんの警官。その真ん中でspeak outする人。別に聞きたかったわけじゃない。でも拡声器からの声は勝手に耳に入ってくる。内容は韓民族が卑劣で、我々は国土を守らなければならないというようなことだった。周りから殺せというような言葉。不愉快だった。誰かが誰かを殺せと言っている。しかも、その人がなにかをしたからじゃない。国籍が韓国籍、北朝鮮国籍だから殺せという。
もう聞きたくなかった。だから、ヘイトデモの情報を調べて、かち合わないようにしようと思った。デモがある日はその周辺に近づかない。意外と梅田はデモがないので快適である。
今週末は日刊国交断絶国民大行進というデモがあるらしい。場所、時間を知るため告知動画をクリックする。赤字ゴシックの典型的なやつ。これは近づいたらあかんタイプっぽい煽り方。そして、使われている音楽に衝撃を受けた。rage against the machine。
RATMの音楽が私は好きです。革新的なギターサウンド、衝撃的なライム、ファンキーなリズムライン。そしてその思想。大国の中のマイノリティーの叫びを体現していたのがRATMだった。
そもそもこの曲「GUERRILLA RADIO」の歌詞に出てくるムミア事件をこの動画の作者は知らないのだろうか? これは、人種差別的な裁判で死刑判決を受けた黒人ムミア・アブ=ジャマールをテーマに、人種差別を放置するアメリカ政府と特権階級を告発した曲なのだ。どう考えても特定民族を批判し、排除しようとする活動にふさわしい曲ではない。Rage Against Korea などと、RATMの名前を使ったような煽り文句もやるせなかった。この動画を作った人は、RATMを聴いていながら特定の民族を排除するデモをしようと思ったのか。メッセージは全然伝わらないってこと? すごくショックだった。曲の意味を全然理解していないわけでもなさそうなのが余計にやるせない。表面上の煽り文句だけ拾う人。
RATMのメンバーがこの動画に自分の音楽が使われているということを知ったらどんなに悲しむだろうと思う。そして、この時初めて、ヘイトデモに対するやるせなさが、怒りに変わった。
結局私は、大事な、大好きなRATMの曲が汚されたから怒っているのである。自分の都合でしかない。でも、ずっと怒りをくすぶらせていたのも本当なのだ。だからこの一点で耐えられなくなってしまった。
いつかこのブログでも書いたことがあるけど、日本は、人種コンプレックスは強く持つ国だけれど、人種差別意識が低い国だと思っていた。そんなこの国の文化が誇らしかった。でも違ったんだな。私の勘違いだった。この国は、特定の民族を排除しようと動く団体を是とするような国なのです。
誰かに対して腹を立てて「死ね!」と思ったり「殺したい!」と思ったりすることは(本気度合いはともかくとして)誰にでもあることだと思う。でも、普通はその感情を相手にそのままぶつけたりはしない。ヘイトデモの、根本的な問題はそこにあると思う。さらには、具体的に何かをされた相手に対して「殺したい」と思っているわけでなくて、ただその集団に属している人だ、という理由でその人を「殺せ!」と大声で叫ぶというのは、その理不尽さが悔しい。
「死ね!」とか「殺す!」ということを、相手に伝わる形でspeak outすれば、それは脅迫行為で犯罪だ。
さらに、特定の民族に対する殺害行為、レイプ行為などの街宣、ビラ、うわさの流布などの宣伝活動は民族浄化の手法の一つでもある。また、彼らの主張する在日コリアンの国外退出がもし実際に国家で行われば、完全な国家犯罪となります。国家犯罪を喧伝するデモを合法にしていいのか、私には甚だ疑問だ。
日本がもし、本当に自由な世界を希求しているのならば、いつか絶対このヘイトデモの増加は歴史の汚点になると思うから。もうやめてください。