「義経千本桜」① 大序~鳥居前 (文楽・歌舞伎)

 義経主従クラスタに捧げる演目紹介3。

 

 「義経千本桜」は、そのタイトル通り、ほぼ全編に渡って義経が出てくる、義経クラスタならば見ておいて損はない演目です。ただ、人気のある部分だけ抜き出して演じられることが多いので(ミドリ)、選択を間違えると「義経出て来なかった……」という場合もあるので注意。

 「通し狂言(全体を通して上演すること) 義経千本桜」と銘打たれているときは、行っておいたほうがいいと、私、思います!!

 

ご参考程度に、 義経主従クラスタにオススメの演目順位(私見

1、通し狂言義経千本桜」    義経も、弁慶も、いっぱい見れる!!!

2、鳥居前(この下で解説)    たまーにミドリが出る。主従の契りが深く描かれる、クラスタ的に一番のみどころ!!

3、四の切(次次回解説予定)  弁慶は出ないが、義経の情の深さ、悲しみなどがよく表現されている

4、碇知盛(次回解説予定)    弁慶も出てくるが、主従とも出番は少なめ。知盛ちゃんメイン

 

義経弁慶が出ないけど、よく上演される2つ

○椎の木・小金吾討死・すし屋

維盛ちゃん方の話で出番なし。だが名作

○道行初音旅(吉野山

静が義経に会うため忠信と旅をしているところ。文楽と歌舞伎で結構演出が違う。どちらも美しい。

 

 ではお話を順を追って紹介していきたいと思います。

 

大序

 通しのときしか上演されない上に、しかも通しなのにハブにされたりしがちなところですが、義経主従クラスタ的には大変おいしいのがこの箇所です。

 

 義経は、後白河法皇に「初音の鼓」を賜りますが、これは「頼朝を討て」との上意なのです(「討つ」と鼓を「打つ」をかけている)。困った義経は鼓を返上しようとするが、後白河院の寵臣、藤原朝方はそれを許しません。キレた弁慶が朝方に食ってかかりますが、義経はそれを叱りつけます。

 忠義ゆえの悪口を叱られる弁慶ちゃん。なにこの主従。尊い

 

 この後、維盛ちゃんの奥さんが都落ちする話が続きます。あんまり主従に関係ないので省きますが、個人的には平家権勢を誇ったときに常盤御前が牛若丸たちを連れて逃げた姿にかぶって、悲しみが湧きます。

 

 義経公の館では宴が行われています。さっき怒られた弁慶はまだ許されず、義経にお目通りかないませんでしたが、義経の正妻・卿の君と愛妾・静御前のとりなしによって許してもらいます。

 そこに鎌倉殿(頼朝)の使者、川越がやってきて、義経に謀反の疑いありと問い詰めます。そこで義経に謀反の疑いがかかるのは平家の娘である自分が正妻であるせいだと、平時忠の養女でもある卿の君が自害してしまいます。実は卿の君は使者川越の実の娘。川越も心で泣きながら卿の君の首を討ちます。

 すると表で陣太鼓の音が。鎌倉方の追手が早くも攻めてきたのです。今、ことを構えてはまずいと義経が策を練るうちに、なんと弁慶が門外で追手の大将の一人を討ってしまったとの報が。

 卿の君の犠牲が無駄になってしまったと嘆く一同。そのまま館を脱出します。

 弁慶が館に戻るとそこはもうもぬけの殻。弁慶は敵方相手に大立ち回りをして、もう一人の大将首をひっこ抜き(物理)、義経を追いかけていきます。

 弁慶ちゃん……!!

 

 義経千本桜の弁慶ちゃんはちょっと粗忽で、でも義経のために頑張る忠臣ですね。かわいい!!

 というすばらしい幕ですが上演されないことが多いので、「通し狂言」と書いていても前もって確認してみてくださいね。

 

 

 

二段目① 伏見稲荷の段(鳥居前)

 

 義経一行は稲荷前まで逃げてきます。そして弁慶も追いついてきます。弁慶は前の幕で大将首を2つも取ったので、わりと意気揚々と駆けつけます。かわいい。しかし義経からすれば、卿の君の犠牲を無駄にし、鎌倉方に言い逃れできない状況を作ったのはほかならぬ弁慶です。怒って弁慶を扇で散々に打つ義経公。義経公の折檻!!!

 弁慶はここでやっと自分のあさはかさに気付きますが、しかし、主君の命を狙う敵を目の前にして、どうして黙っていられましょう(意訳)とはらはらと泣きます。弁慶ちゃん……!!

 ここで静がまたも口添えしてくれて、義経も今は味方が一人でもほしいからしゃーないな(意訳)と許してくれます。

 ツンデレかな? 公ってツンデレかな?

 ここから義経一行は九州に向かうのですが、船旅は危ないので静は連れていけません。義経は静に初音の鼓を形見にあげるから、と言うのですが、静は「一人にするなら死にます」と泣くので、桜の木に静をくくりつけて(自殺できないように)置いていきます。

 書いてて自分でも弁慶のシーンの説明との温度差に驚きますが、ここのシーンも悲しくも美しいシーンです、と一言添えておく。

 

 そこに鎌倉方の追手、藤太がやってきます。この藤太はコミカルな役で、武士だけど強くはありません。義経の愛妾と初音の鼓を見つけて大喜びで連れ去ろうとします。ここで色々と面白いやり取りがあるので、肩の力抜いて楽しく見られます。

 そして、静が連れ去られそうになったところで、義経の忠臣、忠信がやってきて、さっそうと静を助けます。立ち回りがすごいです。不思議な力を使って藤太を倒す忠信。戻ってきた義経も大いに喜びます。

 

 愛する女を助けてくれたんで、忠信の株はだだ上がりです。義経公はご自分の名前「源九郎」を忠信に与えます。これはめっちゃすごい!! さらにご自分の御着長(鎧)まで与え、静を守るようにいいます。これはあるイミ、自分の妾を忠信に下げ渡したともとれます。昔のお貴族様は身分違いで結婚できない妾を部下に与えることがあったようです。

 義経はもう静に会うことができないかもしれないと考えていますから、その場合静が身の振り方に困らないようにと考えたかもしれません。名と装束を与え、静に忠信をオレと思えよ、と言ってるようにも見えます。

 なんにせよ忠信にとっては大変な名誉です。静と義経は涙ながらに別れを惜しみますが、義経と静を忠信と弁慶が抑えて二人は別れます。

 このシーンも!!!! 深読みすれば!! できると思う腐女子!!!!!!!!

 

という義経主従クラスタ大興奮の稲荷前でした。

 

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