「義経千本桜」③ 三段目~五段目

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三段目

 今回三段目についての詳細な説明は省きます。なぜなら、この段には、義経・弁慶が出てこないからです。この部分では死んだはずの平維盛が生きていて、出家するまでのお話をえがきます。義経主従クラスタへオススメするという今回の本題から外れるので省くだけで、お話としては大変おもしろい名作ですので、興味があればぜひご覧くださいね。

 

四段目

道行初音旅

 ここも義経たちは出てきません。義経に会うために、静かと忠信が旅をする話。これも人気の演目でよく出ます。

 

蔵王堂の段

 この部分は、現在歌舞伎ではまず演じられることはないです。義経たちをかくまっている河連法眼が、他の法師たちと評定しています。義経につくべきか、頼朝につくべきか。法眼は他の法師を信じていないので、ここは「頼朝につく」と言って去ります。

 

河連法眼館の段(四の切)

 お待たせいたしました。やっと義経が出ます河連法眼館の段、通称「四の切」。人気演目です。「四の切」とは四段目の最後、主要となる部分(切場)の意味。「四の切」というだけで、通常この「義経千本桜」の四段目切場を指します。それくらい代表的で有名な演目ということです。

 ちなみに弁慶は東北への脱出ルートを確保に行っていてもうここにいません。。。。。な、なんで……なんで大事なところにおらんのwww

 

 吉野山に逃げてきた義経一行は、義経鞍馬山時代の知合いの河連法眼の館に身を潜めています。先ほどの段で他の法師たちを信用しなかった河連法眼、自分の妻も信用できるかどうか分からないので、妻を試すために彼女にも「自分は変心して頼朝につき、義経を討つつもりだ」と言います。妻は自分が疑われていると知り、憤慨して自害しようとしますが、法眼は疑いは晴れたと言って、それを止めます。話を聞いてきた義経も奥から出てきて、二人の志に感謝します。

 

 この「義経千本桜」の義経は何かしてもらったら必ず礼を述べにきます。三段目で銀平に助けられたときも礼を言いに出てきました(書き忘れたけど)。

 法眼はともかくとして、町人にまでも謝意をあらわす厚情で有徳の君、というのがこの「義経千本桜」の義経像です。そんな義経が弁慶には(理由があるにせよ)折檻するんだから、主従、尊い

 

 さて、そこに忠信がやってきます。喜ぶ義経

 忠信との再会ももちろんうれしいですが、義経的には忠信に預けた静に会いたい。「静は?」って聞いちゃうのも道理ですわな。だが、忠信は「なんのこと?」て感じです。

 お前には京都で名前までやって、静を預けただろう、と義経が言うと、

「身に覚えなき事。私は出羽に帰った後、すぐに義経様に合流したかったけれど破傷風にかかってしまい、行くにいかれず、やっと病も癒えたので、急ぎこの吉野へ来たばかり」

 と言います。

 さてはコイツ、裏切って静を鎌倉に引き渡したな。義経はそう思って怒ります。

 しかし、そこへまたもう一人の忠信が静を連れてやってきたとの知らせが。

 

 静が初音の鼓を抱えてやってきます。我が君様に会えてうれし涙を浮かべる静。しかし義経はまず「忠信はどうした」とききます。忠信を見失っていた静は、控えている忠信を見つけて

「次の間までは一緒に来たのに抜け駆けとは、戦でのクセの抜けないお方だなあ(当時の戦では一番乗りは誉)」

 と戯れかけます。

「その忠信はお前と来た忠信ではない」と義経に言われて、「そういえば、小袖の柄も違うような……」と静もいぶかしみます。

 道中、忠信に不審な点はなかったかと聞かれ、静は「そういえば、思い当たることがある」と語ります。

 

 忠信は初音の鼓の音色が以上なほどスキで、その聞き入る姿は時におそろしく感じるほどだった。

 また、忠信はいつの間にかいなくなっていることがあったが、静が初音の鼓を打つと必ずどこからともなくまた現れてここまで旅をしてきたというのです。

 

 鼓を打てば必ず現れるのならば、それを利用して詮議しよう、ということになりまして、義経はこの鼓を打てませんから、静に詮議を任せて一同は奥へと引っ込みます。

 

 一人になった静は初音の鼓を打ちます。するとどこからともなく忠信が現れ、鼓に聞き入る様子。尋常ではありません。

 静は隙をみて忠信を切ろうとするが、かわされます。切られる覚えはない、と言う忠信ですが、静は初音の鼓で忠信を追い詰め、忠信は観念して初音の鼓と自分との関係を語りはじめます。

「昔、日照りが続いたとき、雨乞いのために年を経たキツネの皮を使ってこしらえたのがこの初音の鼓。キツネは陰のケモノなので、その音はたちまち雨を呼び、民草は喜んだ。その鼓は、私の親なのです」

「鼓が親とは……、さてはそなた、キツネじゃな」

 静に正体を言い当てられた忠信は本性をあらわします。白狐です。ちなみに白狐に変わる前から忠信の本性が見え隠れしていて、動きや喋り方(狐言葉と言われる、不自然に音を伸ばしたり詰めたりする独特なしゃべりかた。ちょっとかわいい)に現れているのでそこも注目してみてください。

「親が殺されたときにはまだ幼く、親孝行の一つも出来ずに終ったのが悲しく、恥ずかしい。そのせいで官位(神格)も上がらず情けないことです。今まで初音の鼓は宮中にあって容易には近づけなかったが、この度義経公がたまわったので、せめてお傍にいて、また、鼓の所有者となった義経公のためにも力になりたいと付き従ってきた。しかし、本物の忠信様に嫌疑がかかり、迷惑になるので、もう去れと、親の鼓も音で知らせてきます」

 と言って名残惜しげに鼓を見やり見やりしながら、ふっと消えてしまいます。

 

 奥から出てくる義経義経も親子の縁がうすく、またやっと相見えた兄に仕えてきたが憎まれ、討たれようとしている。自分と狐の親兄弟の縁の薄さを重ね合わせて嘆き、狐を哀れんで静に「鼓を打ってすぐに呼び戻せ」と言いますが、不思議やな、鼓は打てども音がしません。どうやら鼓も親子の別れを嘆き悲しんでいるようだ、と静も悲しみ嘆きます。

 

 と、突然また狐が現れます。ここはあんまりなんでまた帰ってきたのか説明がないのでよく分かりません。「義経怒ってない?」と思って帰ってくるのかな?

 義経は、ここまで静を守ってきてくれた褒美に狐に初音の鼓を与えると言います。狐、大喜び。

 上皇から賜ったものを、勝手に畜生に譲っていいんでしょうか? ちょっと心配になります。

 すると、初音の鼓がひとりでに音を立てます。狐が、はっとして言うには「今夜、荒法師たちが義経を捕まえに攻めてくる」とのこと。

 狐が幻術を使って荒法師たちを招き入れ、同士討ちさせたりして追い返してしまいます。そして狐は初音の鼓と一緒に喜びながら飛び去っていきます。

 現行の歌舞伎はこれで終わりです。源九郎狐ちゃんよかったね、で大団円。桜吹雪散らして派手~に終ります。このあとの5段目が歌舞伎で演じられることは、現在まず無いです。

 

 本当は四段目はもうちょっと続きがあって、荒法師は狐の助けもあって全部捕らえることが出来ました。しかし敵の大将、覚範上人は館の奥まで入ってきます。そこに義経が「平教経待て」と声を掛けます。なんと、覚範上人は死んだはずの平教経だったのです(またか)。

 義経は教経と数度刃を交えて、そのまま奥へ引っ込みます。それを追いかけていった教経、そこで安徳帝を発見します。安徳帝を連れて出て行く教経と義経は改めての決戦を約束して別れます。

 

 この四の切は狐忠信が主役です。突然現れ、突然消えるしかけ、狐っぽい動きなどが見所。

 わたくし、三代目猿之助(現・猿翁)さんの大ファンなので特筆いたしますが、現在歌舞伎の狐忠信のケレンは、すべて三代目猿之助さんの考案した型です。狐忠信の方は音羽屋(尾上菊五郎家)型と澤瀉屋市川猿之助家)型がありますが、音羽屋もケレンの部分は現在、澤瀉屋のものを使用しています。

 引抜(一瞬での衣装替え)、二階部分から飛び降りてくる仕掛けなどなど、本当に驚くような仕掛けがいっぱいですので、是非ご覧くださいね。

 

五段目 吉野山の段

 ここもそんなに義経の出番はありません。結末に持っていくためのエピローグ的な感じがあります。

 教経と忠信(本物の方)が決着をつけます。教経は忠信の兄を殺しているので敵討ちですね。雪の吉野山。忠信は源九郎狐の力も得て、勝ちます。

 そこに川越がやってきて、「頼朝を討て」との院宣は朝方の謀略だったことが判明したので、朝方の処遇を義経に任せるという後白河院のお達しを伝えます。平家討伐を命じた朝方は教経にとっても敵なので、教経が朝方を討ちます。その朝方を忠信が討って平家はここに滅びた。で終わり。

 ちょっと暗い。やっぱり四の切でかわいい狐ちゃんを見送って良かったな、で終ったほうが楽しく終れるかもしれない。歌舞伎はそういうのを重視したんでしょうな。

 

 ただ、この「義経千本桜」は全体を覆っているこの悲劇の予感こそが持ち味なんだろうな、とも思います。みんな、この後義経が非業の死を遂げるのは知っています。最後に待ち受ける悲劇を知りながら、でもこのお芝居では一応義経は勝った(?)形で終わる。この一瞬の輝きを捕らえているから、この作品はウケるんだろうと思います。

 

 今回も、義経・弁慶に関係の無い部分をかなりはしょって書いています。「義経千本桜」の詳細は文化デジタルライブラリーにちゃんとした解説ページがあるので(またか)、そちらでご覧ください。

http://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/contents/learn/exp3/index.jsp

 

 

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