まさに今剣と岩融!「牛若丸 弁慶 五条橋」(文楽)

   主従三世の縁の綱

        約束長き 五条の橋

 タイトルにてお分かりかと思いますが、牛若丸と弁慶の出会いのシーンを語ったものです。

 「鬼一法眼三略巻」というお芝居の五段目らしい。

 これは、とうらぶの義経主従クラスタにはかなりオススメですよ。牛若丸がかなりの強気ショタで、それに翻弄される大男弁慶という、もう我々がまさに見たかった! 義経主従がここにおるよ!! この演目の牛若丸はものすごく今剣ちゃんのあるじさまという感じがします。似てる!!

 このお話では五条橋で千人斬りしているのは牛若丸のほうで、それを懲らしめて召し使おうと思って弁慶がやってくるわけです(実際には召し使われるんですが)。

 若君(牛若丸)が千人斬りしてるのは修羅道に落ちた父を弔うため、という取ってつけたような設定が冒頭で語られます。あの英雄・源義経が若気の至りとはいえ、理由もなく千人斬りをしていてはやはりまずいのでしょうね。

 牛若は女装しています。女装ショタです。牛若といえば女装。

 五条橋で二人はすれ違います。牛若ちゃんの姿は「青柳の糸より細き腰つき」の女性ですから、お坊さんの弁慶は恥ずかしくて声もかけられず、橋のかたわらに寄ります(なにこのかわいい生物)。

 そんな弁慶を見て若君は「ちょっとなぶったろ(彼をなぶつてみん)」と、弁慶が右によければ右に、左に行けば左に寄って、通せんぼをします。そしてすれ違いざまに薙刀の柄を蹴り上げます。

 完全にケンカ売ってます。チンピラの所業です。

 これにはさすがの紳士・弁慶もキレる。薙刀を押っ取って切りかかりますが、若君これをひらりとかわし、薄衣を薙刀の柄に投げかけます。これはおそらく視覚的な美しさの効果を狙った演出であると共に、ここで牛若丸が本性をあらわす、という表現かなと思います。

 牛若は佩刀薄緑を抜き、弁慶と打ち合います。ちなみにこの演目ではっきりと名前の出てくる刀は薄緑だけ。弁慶の薙刀は権現様から賜ったという設定になっています。岩融は近年になってメジャーになってきた名前のようで、この頃の作品ではほぼ出てきませんね。

 

 牛若丸はひらり欄干に飛び移り、薙刀の刃の上に乗って弁慶の動きを封じたり。立ち回りの美しさと面白さが魅力です。牛若、完全に弁慶をおちょくってます。腹立ちますね。かわいい。

 ついに弁慶は薙刀を打ち落とされ、組もうとするも斬り払われ、万策尽きます。

「汝は何者」

 好敵手に名前を尋ねるのは古来からのならわしですね。「汝」と言っているのでこの時点では弁慶タメ口です。

「ホゝ、我こそは、源牛若丸」

「したり、道理で大抵の人でないと思うた。今より後は御家来、コレ可愛がって下さんせ」

 と頭を下げるのですが、なぜかこの場面でフフッて笑いが起きたんですよなあ。大阪やからかなあ。

 大男がショタっ子に縮こまって頭下げてるのがかわいくて笑っちゃうんでしょうな。

 はっきり言って、めちゃかわいい。もう、萌えしかない(真顔)。

 すごく短い幕ですが、本当にツボを押さえた演目で、牛若・弁慶が好きな人にはたまらん景事になってます。もう、グッジョブしかない。人形も義太夫も作った人分かってる。わたしいつの間に文楽書いたの? ていうくらい理想の主従がそこに。。。

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