人間は美しいということを思い出したければハバナに来ればいい ハバナ2日目後半

 ハバナの町を歩いていて気付くのは、小学校の多さ。数百メートルに一個くらいある。

 二歳までのお子様を預かる保育所もちらっとのぞかせてもらった。共産主義国キューバ、もちろん無料です。「平等な社会」「こどもの搾取を許さない」というマルクス主義の基本をしっかり守り、こういう制度は本当によく整えられている。

 歩き疲れたので一度ホテルに帰る。ホテルは高級住宅街にあるメモリーズミラマール。こぎれいな大型ホテル。

 旧市街までは距離があるのでシャトルバスが出ているので使ってみることにしたら、なんと定刻より2分早く出発した。びっくりした。10分前行動しておいてよかった!!

 基本的にキューバでは物事が時間通りにはじまることはない。絶対遅れてはじまる。ハバナ発の飛行機も運行会社によらず、時間通りには出発しないと思っておいたほうがいい。

 時間にきっちりした人は苛立つかもしれないが、何事も慣れである。このルーズさは、いい様にとらえると「融通が利く」ともいえるからだ。

 お子様が落ち着かなくてお母さんがもたついていても、障害者がいて移動に時間がかかっても、誰も苛立たないし、本人たちも焦ることなく自分のペースで事を進められる。だって、それがあってもなくても開始は遅れるんだから一緒なんである。だったらみんなハッピーにのんびり事を進めるほうがいい。

 あと、キューバの人はいついかなるときも、知り合いがいると話しかけないといけないらしい。仕事中だろうが移動中だろうが自分の後ろに列が出来ていようが関係ない。これはそういう風習だと思って諦めるしかない。なにかを買おうと店員に話しかけた瞬間、店員の知り合いが通りかかってしまったら、話が一段落するまで待つしかない。こんなことをしていたら、そりゃ何事も開始時間は遅れていく。

 逆にこちらの顔を覚えてもらうと、すれ違っただけでも熱烈に喜んでくれるので、これはこれでうれしいものである。

 そんなわけですっかり油断していた私はあやうくバスに乗り遅れるところだったのだ。危ない危ない。

 旧市街に到着し、革命博物館の外からグランマ号をのぞこうとしたが、よく見えなかった…(休館日だったのである)。

 10年前にはちゃんと中に入ってグランマ号を間近で見たのだが、想像以上に小さな船だった。

 革命博物館に行くと、戦争とは、どんな大義を掲げていても人を殺すという行為で、仲間も殺されるという行為なんだと思い知って、体が震えた。夢見がちにゲバラに憧れていた学生時代の私にとって、それはなかなかの衝撃だったように思う。

 しかしrevolucionそのもの全てを否定するわけにはいかないのも事実であって、バティスタ政権の下、栄養失調と衛生状態の悪さでバタバタ死んでいっていた子どもたちに清潔な制服を着せ、読み書きどころか大学まで無料で行ける道を子どもたちに開き、全ての国民を飢えさせないよう、治せる病気で死なせたりしないよう舵を切ってきたこの年月を否定は出来ない。

 さて、手持ちのCUC(外国人向け通貨)がなくなってきたので、オビスポ通りの両替所で両替した。キューバでは現在米ドルが基本使えないので(逆に10年前は外国人は米ドル払いが基本だった)、ユーロに次ぐ世界通貨として日本円の両替は比較的簡単だ(あとカナダドルも強い)。日本人的には大変うれしい。ありがとう米国(いつまで続くかわからんが)

 

 晩御飯にいい時間になってきたので、ラ・ボデギータへ。ここはヘミングウェイ行きつけの店、モヒート発祥の地として名高い。飯はややアメリカ寄りの味付けで、キューバにしては濃いめでおいしく食べれると思う、多分。あんまり量食べられないので、一皿をシェアすると言ったが、全然気にせず取り皿を用意してくれた。キューバのレストランは割とこういう感じだ。気がいい、というのもあるが、まあ、キューバ人は細かいことは気にしないのである。

 余談だが、ラテンアメリカの飲食店では食べ終わった後の皿を下げに来るのがめっちゃ早いが、これは多分、土地柄的に食べ残しを放置していると虫がたかるからだと思う。他意はないはず。ラテン系の常として、食後ダラダラおしゃべりするのは当たり前の行為なので、全部下げられたからと言って、早く帰らなきゃ! と思う必要はないみたい。

 ラ・ボデギータには常に楽団が入ってるのだが、ものすごいレベルが高い。ここに限らず、どこに行ってもハバナの観光地でやってるバンドはレベルがすごくたかくて本当にびっくりします。

ラ・ボデギータ2
ラ・ボデギータ2 posted by (C)つばな

ラ・ボデギータ1
ラ・ボデギータ1 posted by (C)つばな

 アメリカ人らしくないアメリカ人、ヘミングウェイキューバの土地と人々を愛し、革命後キューバに入国した際「我々キューバ人は勝つ!」とシュプレヒコールをあげたことで、キューバとさらに深くつながった。アメリカでさぞ生きにくかったろうなと思う。私のスキな作家の一人です。

 ここからタクシーに乗って、ベダド(新市街)地区のコッペリアへ。キューバ一有名なアイス屋さんだ。キューバは飯マズだが(ついにはっきり言った!)、アイスはうまい。激うまです。こっくりした深い味わい。砂糖も牛乳もいいからだろう。

 そうそう、キューバの食料は、農作物はすべて有機栽培、肉類は基本放し飼いなので、自然派の人には天国だと思う。遺伝子組み換えも農薬もブロイラー工場もなし! そのかわり、お肉は淡白っていうか、よく引き締まった、野生な味がする。でもこれが本来の肉の味なんだろうな、と思った。我々は漂白されたお肉を食べているようなものなのかもしれない。

 

 コッペリアの森とでもいえそうな公園みたいなところに、キューバ人向けと外国人向けの店舗が出ている。

 国内向けは5スクープくらいの量で出てきて味は選べないらしい。外国人用は好きな量選べて、味も選べる。値段は天と地ほど違う。守るべき国民と外国人とで値段設定が違うのは共産圏じゃなくてもタイとか行くとよくあることなので、これは慣れてもらうしかない。

 外国人向けは24時間営業。9時を過ぎていたので外国人向けのところで食べた。イチゴとなに味だったか忘れた。ちょっとめずらしい味をチョイスしたはず・・・。

 コッペリアのアイスは至高にうまい。

 コッペリアの前はホテル「キューバリブレ(自由のキューバ)」。ヒルトンホテルとしてオープンするはずだったが革命が起こり、フィデルたちに接収されたホテルである。

 その隣は映画館。今回はキューバ映画を上映していたが、十年前行ったときはハリウッド映画「デアデビル」を上映していた。日本映画がかかるときもあるそうな(ジブリとか)。

 そこから坂道を海側に歩く。夜になると、ハバナの人は家の外に出てくる。室内が暑いから。クーラーのついている家は少なく、ついていても動く家はもっと少ない。

 座るところがあって、しかも風通しのよい場所ををハバナ人はよく知っていて、そこには人が溢れている。

 そしてみんな携帯をいじっている。

 今までもやってる人はこっそりやっていたインターネットだが、ラウル政権になってWi-Fiが使えるようになりどこでもネットに繋げることができるようになったので、キューバ人はもう携帯に夢中だ。勤務中でも携帯いじりまくっているのである。オフモードの夜なんかいじりまくるに決まっている。

 地元の人が集まるレストランからは陽気な音楽が流れ出て、店員は踊りながら給仕する。これがハバナの町。

 そこから再度Hotel Nacionalへ至り、ちょっと休憩。

 ここから自分の泊まったホテルまでタクシー乗ったんだが、時間帯と場所柄からたまたま空いてたのか観光客用のアメ車タクシーに乗れた。

 キューバの風物詩クラシックアメ車は、10年前にはキューバ人用の乗り合いタクシー(コレクティーボ)には使われていたけど、観光客用タクシーには使われていなかった。なぜなら、あの古いアメ車たちは、新しい車が買えない人たちが仕方なしに修理に修理を重ねて大事に乗っている車だから。

 今も大半はそうなんだけど、観光客用にかっこよく整備したアメ車が一部、観光タクシーとして活躍している。アメ車オタクの観光客からの需要があるのだ。

 10年前に乗ったガタガタ揺れる現地人用のアメ車タクシーと違って、観光アメ車はシートもふかふかで乗り心地がよかった。

 ハバナの人は基本的に親日家である。基本的に、と書いたのはあんまり日本がどんな国かわかってないからだ。キューバには日本企業が進出していない。アメリカ様に気を使っているのだろうか、友好国の一つのはずなのに、ほかの国に比べると、ODAも控えめである。だからハバナの人の日本人イメージは観光客のイメージである。よく言われるのは「日本人シャイだね」。ハバナ人に比べれば世界中の人間がシャイなんじゃない? て思うけど、まあ、その中でも飛びぬけて日本人はシャイなんだろう。観光客なのに現地人に話しかけられてもあんまり喜ばない人種だから変に思われていると思う。(ハバナの人は知り合いだろうがそうじゃなかろうが話しかけてくるし、日本人めずらしいからお話したいのである)

 よく普及している車は中国のYutongです。安いってのもあるし、キューバの最大の貿易国ってのもあるだろう。続いてフォルクス・ワーゲン。Yutongほどでないが、結構多かった。そして高級車の定番はBMWとベンツ。一昔前はロシア車(プレジデンテ)が高級車だったらしいが、今やフィデルBMWに乗ってるらしい(タクシーの運ちゃん談)。

 電化製品はLGなど韓国系が強い。

 しかし、日本製神話はキューバにもあるようで、たまーにミツビシの車とかソニーの携帯とか使ってる人がいて、それはかっこいいことみたいだ。

 それと、キューバ人は親中国派でもある。ロシアとの関係が冷え込んだ後、経済的に下支えしてくれた中国に悪い印象を持っていない。極東の人間は全部同じ顔に見えるので「ニーハオ!」と声をかけられても怒ってはいけない。日本人です!と言ってあげてください。あまり中国人観光客はいないので、コニチワ!と声かけてくる人も多いけど。

 というか、キューバ人は「嫌いな国」というのは多分ないんだろうなと思う。あんなに色々あったアメリカさんでさえめっちゃウェルカムである。早くアメリカ人観光客来ないかなって今思ってる。旧宗主国のスペインにも、恨みつらみはない。めっちゃ仲良くやってる。

 全然ないわけではないのかもしれない。でもそれはそれ、今は今なんだろう。キューバ人は細かいことにいつまでもこだわっていないので、今仲良く出来るのなら仲良くするだけなのです。

 でも、アメリカ人観光客が来るようになったらこの町も変わるだろうな、と思うので(まずマクドナルドが出来るだけでもすごい変化ですから!)、今来られてよかったなって思った。

 10年でハバナもかわったな、という印象を受けたけれど、この町のおおらかさ、親しみやすさはそのままだった。

 それは元々この土地に生きる人が持っている性格なのかもしれないけれど、性別も、人種も、宗教も差別しない、そんな国を作ろうと努力してきて、そしてある程度成功したこの国が手に入れた性格なのかもしれないと思う。少なくとも子どもが履く靴さえなく破傷風でバンバン死んでいっていた時代はこうではなかったんじゃないかな。

 人間が美しいということを思い出したくなったらハバナに来ればいい。人間は優しく、どんな憎しみや怒りも乗り越えていける強さを持っていることをこの町は証明してくれる。