日中戦争開始時の雑誌「上方」を読む ②

 コロナ禍を超えて、中之島図書館の禁帯出本の利用制限が解除されました~!! わーいおめでとう私!!

 雑誌「上方」は中之島図書館では復刻版が開架禁帯出扱いで、司書さんの手を煩わせずに読み放題なので、中之島図書館が再開されたのはとてもありがたいです。

 とは言えいまだ感染症対策には万全を期さなければならないですから、あまり図書館には長居せず、ちょっとずつ読み進めたいと思います。

 

 ちなみに第一回のブログエントリはこちら

tsubana.hatenablog.com

長期化する戦争、国家総動員法の成立

 今回は前回の続きで昭和13年の「上方」を読んでいきますので、昭和13年の主な出来事を下記に示します。前年勃発した日中戦争が日本の思惑とは異なり、長期化していきます。

 

1月 蒋介石政権との講和交渉打ち切り
   近衛文麿内閣にて国家総動員法の法案提出閣議決定

3月 中国・国民党軍、退路戦術で黄河を決壊させ、多くの農民が命と土地を失う

4月 国家総動員法交付

10月 日本軍が武漢三鎮制圧。この作戦で日本軍は毒ガスを使う

12月 日本軍が重慶爆撃開始。この後、重慶では事実上の無差別爆撃が繰り返される

 

独自の特集と時局のバランス

 ・昭和13.1月85号「王政復古萬七十年記念 維新勤皇号」
表紙「住吉大社」 口絵 橿原神宮
徳富蘇峰の序文付
まさに勤皇志士列伝。いつも通りあくまで文化史的側面にとどまろうとしているのは分かるが、題材上、どうしても政治色が出る。

 

 ・昭和13.2月86号「河内研究号」
表紙「枚岡神社梅園の図」 口絵 応神天皇陵、楠公史跡

河内源氏百済寺、河内木綿、河内音頭など幅広い河内特集。

河内源氏系譜とその現代 佐藤佐」から冒頭の文章を引用します。
「多年抗日を目標とした支那国民政府は、皇軍の武威に脆くも敗退し、向ふ所敵なく皇軍は連戦連勝のありさまである。これは日本の武士道が確立し一貫したる精神が全国民に伝統されているからである」

 今まで、雑誌「上方」は時勢に合わせながらも、出来る限り政治色を排した紙面を作ってきたと思います。この号でも基本的には個々の記事の政治色はほぼないのだが、こう言った非科学的な文言が個別記事に混ざりはじめたことはちょっと注目してもいいのかなと思います。

 特集内容とは無関係だが、今宮神社十日戎行事の奉献鯛行列について、古式復興の監修を南木芳太郎がしたとの記事がありました。

 

 ・昭和13.3月87号「続 河内研究号」
表紙「木津川尻汐干狩」
口絵 用明天皇陵、聖徳太子

前号の続き。飛鳥時代の記事など

 

 

 ・昭和13.4月88号「上方桜花号」
表紙「吉野山

桜の名所、桜の文芸作品などの特集

後記 南木氏
「ちかごろ大阪中心とせる近畿の桜の中にも白っぽくて品位のない染井吉野がだんゝ幅を利かして来た。今に日本全国の桜が染井吉野になるだらうといふので」
ちょっとソメイヨシノを悪く言いすぎだが、この時期関西でも多く染井吉野が植えられるようになったようだ。

 

戦時広告

やはり広告には、記事よりも時局の影響が出ますね。松坂屋のコピーが他の百貨店から乖離していきます。

昭和13.1月85号
高島屋「謹賀戦捷 明朗の新春」
大鉄百貨店「謹みて戦勝の新年をお祝申上げます」
松坂屋「戦勝の新春を迎へ 江湖の萬福をお祝ひ申上げます」
三越「皇威八荒に輝く戦捷の春を祝ぎ奉る」
突然大鉄がやってきてびっくりしたんですが、調べたらこの年に大鉄百貨店が全面開業したそうなので、広告を出したのでしょう。

 

昭和13.2月86号
高島屋「春を装ふ」椿柄の着物女性
大軌参急電車「国民精神総動員 肇国 精神発揚」
松坂屋皇軍慰問に松坂屋の品を! あけて喜ぶ兵士の笑顔! 寒さも消し飛ぶ故国のたより!」
三越「雛の春」雛人形陳列

大軌参急電車を特別に入れたのは、明らかに国家総動員法を意識したコピーなので驚いたのです。なぜならこの時点では議会が紛糾していてまだ法律は成立していないから……。先走りすぎ。

 

昭和13.3月87号
松坂屋松坂屋は戦勝日本の佳人にふさはしき緊張 ご希望に満ちた春の婦人洋装を発表し杲然すばらしい絶賛を博しました」『愛国調に一元化されたモードの先駆!』
高島屋
「交通と御買物の中心南海高島屋」なんば高島屋店のイラスト
三越
「春は三越から 繚乱(異字)たる百貨に乗って」やや抽象寄りの女性イラスト

 

昭和13.4月88号
高島屋 前号に同じ
松坂屋 前号に同じ
三越三越五月人形 戦捷に輝く端午の節句節句を祝ひませう